2025年12月5日更新

第２７０回　人生における「戦略」の重要性＜その２＞

前回お話した戦略について、もう少しお話しましょう。
昔から日本人は、どうも戦略を立てるのが下手というか、うまく立てられません。
それは今の日本でも同じで、国の財政運営を見ればそれはもう、一目瞭然です。

私は日本の財政をずっと追いかけてきましたが、基本的に場当たり、
その場しのぎ、問題先送りばかりの歴史でした。
こんな財政運営では、早晩国家破産が起きるのは明らかで、
だからこそ私は、「日本で国家破産が起きますよ」と言い続けてきたわけです。

ただ、中には「国が破産するって、全然破綻してないよ。
浅井さんは当たっていないじゃないか」と言う方もいます。
もちろん、私が「国家破産は起きます」と言ったからといって、
国家は個人とは違って様々な資金繰りのカラクリがあり、そう簡単には倒れません。
しかし、大木が中から朽ち果て、ある日突然崩れ落ちるように、
腐った国家は知らぬ間に足腰が弱り、ある日崩壊します。
それは、幾多の亡国の歴史が証明しています。
ですから、私はそういう方には「もうすぐ当たると思いますから、待っていて下さい」と答えています。

なぜかはわからないのですが、どうも日本人は将来に目を向けて国の基本を考えるということが
できない国民なのかもしれません。
先ほど触れた財政についても、少し先を見れば放漫財政がもたらす危機に気付くはずなのに、
それを正そうとする財務省を悪者に仕立て、逆に「財務省が国を傾けている」という論が
一定の支持を集めています。
もちろん、いまの財務省にまったく非がないわけではありませんが、
ハッキリ言ってこれはムチャクチャな言い分です。

財政は、国家運営の基本です。
国の中のあらゆる経済活動、つまり個人、家計、企業、国家の
すべての経済活動においての基本が財政に集約されます。
仮に個人が財布のひもを緩め、無計画にお金を使えば、自己破産の憂き目に遭います。
それと同じで、国の財政も無計画に運営し借金を重ねれば、潰れるのが道理です。
そうなれば、その国が積み重ねた歴史も、国民の平穏な日常生活も、すべて失われるでしょう。
歴史上、行き過ぎた借金をした国は数えきれませんが、
それで何事もなく生き長らえた国も一つもありません。
国がなくなるのでなくとも、借金を帳消しにする過程で
まったく中身の違う国になることもあります（実際、日本でも近代で2度、そうなりました）。

個人でも企業でも、何かコトを始めようとすればそれに先立つ「元手」が必要となります。
国家も同じことで、たとえば経済を活性化するために財政出動するにしても、
生活が苦しい人達に給付金を配るにしても、何か始めるには元手がいるわけです。
それが、「財源」です。

「財源」は、大まかに言って「蓄え」「稼ぎ」「借金」の3つで確保できます。
個人に置き換えても同じで、何かに出費する時はどれかから出すことになります。
そして、節度や計画性がある人なら、「蓄え」や「稼ぎ」以上の出費はなるべく控えることでしょう。

もちろん、「借金」が悪いわけではないのですが、
自分の「蓄え」や「稼ぎ」以上に借金を作れば返せなくなることは、ちょっと考えれば分かることです。
生活を破綻させたくない人は借り過ぎには特に気を付けますし、
なるべくは借金を作らないように心がけるわけです。

ところがいまの日本の財政は、明らかに借り過ぎています。
税収の倍以上の支出を毎年組み、借金の残高に至っては税収の２０倍近い額に上ります。
本当なら、ばら撒きをやるにも、借金を返すのも、
「財源をどうするのか」という議論が必要なわけですが、
どういうわけかそこは、「借金」でどうにかするのが通例になっています。
これでは、お話しにもなりません。

今ほど日本にとって「国家戦略」が重要な時期はありません。
終戦からの40年、日本は米国の軍事力に守られ、経済的な繁栄を謳歌して来ました。
しかし、バブル崩壊からの40年は、徐々に他国に追い抜かれ
少子高齢化でさらなる衰退が目に見えています。
外に目を向ければ、北朝鮮はミサイルをバンバン打ち、核兵器も持っています。
中国に至っては、アメリカに次ぐ経済力を背景に軍事力も増強し、
いつ台湾に侵攻してもおかしくない状況です。
中国は、さらに日本までも狙っています。
アメリカは、自国第一主義の下で同盟国家であるはずの日本に関税を課しており、
いずれ安全保障も「自国の安全は自国で守れ」と言いだしかねません。

私たちは、こうした状況の中でいかに日本という国を守るのか、
日本人は将来、どうやって生きて行ったらいいのかを真剣に考えなければなりません。
本来なら、こうした「国家の戦略」や「国家のビジョン」を示すのは政治家や思想家の役目なのですが、
残念なことに今のこの国にはそうしたことをしっかりと示してくれるリーダーがいません。
誰もがあまりにも目の前のことにのみ専念しているので、今後は私がそれを少しでも示そうと思っています。