前々回に続いて、今回も映像の話をしたいと思います。
前回はドラマについてお話ししましたが、今回は私の人生観を変えた映画についてです。
まず1作目は、『2001年宇宙の旅』というSF映画です。
SF映画の傑作と称される作品で、監督は「映像の魔術師」と呼ばれた鬼才、スタンリー・キューブリックです。
彼は『時計じかけのオレンジ』や雪深い山中のホテルで狂気に陥る一家を描いた『シャイニング』など、
数々の印象的な作品を世に送り出しました。
私がこの映画を観たのは中学2年生、13歳か14歳のころです。
今、私は71歳ですから、半世紀以上も前のことになります。
しかし、いま観てもなお、宇宙船の内部や月面基地、月着陸船の描写は驚くほどリアルで、
いったいどうやって撮影したのだろうと思わずにはいられません。
映像は圧倒的で、しかも風格があり、すさまじい迫力に満ちていました。
しかし、ラストは謎に包まれていて、正直なところ当時はよく理解できませんでした。
この映画は、あらかじめ内容を知って観に行ったわけではありません。
私の父は国鉄に勤めており、当時私は板橋にあった国鉄の官舎に住んでいました。
同じ敷地の別の棟に住んでいたご家族のもとへ鹿児島から親戚の子が来ており、彼と私は大親友になりました。
彼と私、そして私の弟の3人で『2001年宇宙の旅』を観に行ったのです。
3人とも人生観が変わった、と言ってもいいほどの衝撃でした。
しかし、物語は難解です。
人間の運命を描いているのか、宇宙そのものを描いているのか、
あるいは人類を超えた「何か」の存在を示しているのか。
その「何か」は、黒い石板――「モノリス」として登場します。
人類がまだ猿だった頃に現れ、猿がモノリスに触れた瞬間、道具を使う知恵を得るのです。
とても不思議な映画で、いまだに何を語ろうとしていたのか、完全にはわかりません。
ただ、スクリーンにその世界が広がった瞬間の衝撃と感受性の強かった少年時代の私が
呆然とした記憶だけは、はっきりと残っています。
また、映像と音楽の融合も見事でした。
冒頭で使われるリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』、
そしてヨハン・シュトラウス2世の『美しく青きドナウ』。
壮大な宇宙の映像とクラシック音楽が結びついた体験は、それまで味わったことのないものでした。
2作目は、『スター・ウォーズ』第1作です。
私は 大学3年の20歳のときに一度休学し、半年間アルバイトで資金を貯め半年間ヨーロッパに留学しました。
帰国後、翌年か翌々年に『スター・ウォーズ』を観に行ったのです。
公開初日でした。大学生で時間がありましたので、初日の朝一番の上映を目指しました。
ところが映画館に着くと、なぜか誰もいません。
実は、すでに上映が始まっていたのです。
前日から徹夜で並んでいた人が大勢いたため、かわいそうだということで
第1回上映時間を繰り上げたのだと聞きました。私は、途中から入場しました。
当時はまだ完全入れ替え制ではなく、一度入ればそのまま何度でも観ることができました。
結局、5~6回は繰り返し鑑賞し、映画館を出たときには夕方になっていました。
その映画館は、銀座1丁目にあったテアトル東京という劇場で、
180度近い大パノラマスクリーンと迫力ある音響設備を備えた、当時としては最先端の映画館でした。
ところが、いざ入ってみると映画の音がほとんど聞こえません。
なぜなら、「C-3PO」や「R2-D2」といった人気キャラクターが登場するたびに、
20~30人ものファンが歓声を上げながらスクリーンに駆け寄ったからです。
テアトル東京はスロープ状になっており、観客が前方へ走っていける構造でした。
劇場係員が「やめてください、スクリーンが壊れます!」と大音量で制止する声が響き渡り、
場内は騒然としていました。すさまじい熱気でした。
作品そのものも衝撃的でした。
ライトセーバーは、まるで日本刀のようであり、ダース・ベイダーの姿は日本の鎧兜を思わせます。
監督のジョージ・ルーカスや親交の深いスティーヴン・スピルバーグは、
少年時代に黒澤明監督の『七人の侍』など日本映画の影響を受けたと言われています。
ブラスターの発射音も、それまでの映画にはなかった斬新なもので、新しい時代の幕開けを感じさせました。
3作目は、10年ほど前に観た『HOME』という作品です。
タイトルの通り「わが家」、つまり地球を意味し、
地球環境がいかに破壊されているかを描いたドキュメンタリー映画です。
ブルーレイやDVDなどでもよいので、多くの方にご覧いただきたい作品です。
この3作品が、私の人生観を大きく変えました。
毎日新聞に入社してから、優秀な先輩記者がよくこう言っていました。
「人が世の中を知るためには、本を読むことが大切だが、良い映画も必ず観るべきだ」と。
特に、時代の最先端を行く優れた映画です。
そこには未来への暗示や、最新の思想や技術が映し出されています。
それを観ることで、人間の未来を想像し、深く考える力が養われるのです。
最近は、映画を2倍速や3倍速で観る若い人もいると聞きます。
私はそれを頭ごなしに否定するつもりはありませんが、
本当に良い作品はじっくり向き合ってこそ意味があるのではないでしょうか。
何が描かれ、何を伝えようとしているのかを考える時間が大切です。
AIをはじめ、便利な道具が増えた時代だからこそ、
自分自身の頭で考える習慣を失ってはいけないと思います。
そのためにも、良い本を読み、良い映画を丁寧に味わうことが何より大切だと思います。 |