天国と地獄
 

2025年8月25日更新

第263回  ここまできた気候変動の凄さ
――鹿児島霧島豪雨で宿を出られず、大変な目に遭った

去る8月9日、鹿児島県霧島市を線状降水帯による豪雨が襲いました。
そして私は、まさにその現場に居合わせたのです。

私は毎年8月、鹿児島に住む幼なじみで親友の久木迫さんを訪ねています。
毎年、鹿児島空港からタクシーで30分ほどの山間にある温泉宿に宿泊しています。

しかし、今年の滞在中に遭遇した出来事は信じられないものでした。
NHK鹿児島放送局の発表によると、鹿児島空港近くの地点で
一晩に433ミリもの雨が降ったといいます。
これは、鹿児島の夏の1ヵ月半分に相当する雨量です。
霧島市のデータでも、1時間に110ミリを超える猛烈な雨が観測されました。

8日夜、私は宿で夕食をとっていたのですが、その時点ですでに雨は激しさを増していました。
宿の目の前を流れる天降川(あもりがわ)は、普段は水位が1メートル程度なのですが、
どんどん水かさが増して行き、瞬く間に激流となりました。
レストランにまで水が押し寄せてくるのではないか、と恐怖を感じるほどの状況でした。
私が宿泊していたのは、4階建ての最上階の部屋でしたのでそれほどの恐怖は感じませんでしたが、
一晩中雷鳴が鳴り響き、まったく眠れませんでした。

翌朝、目が覚めたときには、まるで別世界のような光景が広がっていました。
驚いたのは、テレビが映らなかったことです。
目をこすりながらテレビをつけようとしたのですが、電源は入るものの画面が映りません。
宿のスタッフに尋ねたところ、山の上に設置されているアンテナに木が倒れてしまい、
復旧には1ヵ月ほどかかるかもしれないとのことでした。
停電はしていませんでしたが、携帯電話の電波もほとんど届きません。
宿から空港へは南側・北側のいずれかのルートで行けるのですが、
その両方の道路が土砂崩れ等で遮断され、通行することができない状況でした。
復旧までに何日かかるかわからないという情報を耳にし、非常に不安な気持ちになりました。

川沿いの宿は、今にも激流に押し流されそうだった

ここまでの集中豪雨は、まさに気候変動の影響だと実感しています。
私はこの宿に25年間、毎年8月に泊まり続けています。
これまでにも台風や大雨は経験してきましたが、
天降川の水位が上がることはあっても、これほど多くの崖崩れが発生し、
倒木によってアンテナが壊れるような事態は一度もありませんでした。

天降川の下流に住んでいる久木迫さんの家では、
上流の水道管が土砂により流され、完全に断水してしまいました。
復旧の見通しも立たず、非常に悲惨な状況に追い込まれました。
宿の方や街の人たちも、「生まれて初めての経験だ」と口を揃えて言っていました。
わずか数時間で1ヵ月半分の雨が降るというのはあまりにも異常で、やはり気候変動以外に考えられません。

私は、このコラムにも書きましたように
今年5月の連休にネパールのヒマラヤ山脈のふもとにある村を訪れました。
標高8,000メートル級のダウラギリ山のふもとです。
そこでも村人たちは、「5〜6年前までは山の下まで雪があったのに、
今は雪が山頂にしか残っていない」と嘆いていました。
それと同じように、日本でも気温の上昇により、以前とはまったく質の異なる、
短時間に猛烈な雨が降る現象が頻発しています。

こうした気象変動による大災害は、今後ますます深刻になるでしょう。
皆さんにも、ぜひ災害に対する意識を高めていただきたいと思います。
水害の恐れがある場所には住まない、
住んでいる方は思い切って引っ越すくらいの覚悟が必要だと感じています。

宿からいつ出られるかわからない状況の中、私は眠れない夜を過ごしました。
どうしても、翌日には東京に戻る必要があったのです。
そんな中、夜7時ごろになってようやく道路の一部が開通しました。
空港へと続く道も翌朝には何とか通れるようになり、ホテルの車で空港まで送ってもらいました。

その道中の光景は、すさまじいものでした。
ごく最近建てられたばかりの、有名な旅館の別館2棟が土砂でぐちゃぐちゃになり、
押し潰されていたのです。
あちこちで山崩れが発生し、土砂が道路を覆い、水が勢いよく噴き出していました。

私が泊まっていた宿の裏には、45度くらいの傾斜がある300~400メートルの山があります。
もしあの晩、さらに雨が降り続いていたら、あの山から水が溢れ、
4階の部屋ごと川に押し流され、私は海まで流されていたかもしれません。
そんな恐ろしい想像さえしました。

私の滞在していた旅館後方の山
翌日見たら部分的に土砂崩れが……

宿のうしろの山が崩れていたら、
この川に押し流されてそのまま海まで……

今回の体験を通して、私は気候変動の恐ろしさを身をもって知りました。
だからこそ、「B&G」の活動(当コラム第255回参照)を通じて、
今後の世界の気象がこれ以上悪化しないよう、皆さんのお力を借りて、
さまざまな取り組みを進めて行きたいと考えています。

今回の鹿児島訪問は、私の心に深く刻まれる経験となりました。
きっとこれは、天が私に「浅井が中心となって、この気候変動に立ち向かえ!」
と告げているのだと受け止めています。

人は誰しも、いつどこで思わぬ天災に
巻き込まれないとも限らない。
かといって、恐れてばかりではなにもできない。
私は今回の被災を通して、
残りの人生をこのような災害を少しでも減らすべく、
環境問題に取り組んで行きたいと考えを新たにした。
(2025年8月 霧島大雨被災後に訪れた那須高原で)