天国と地獄
 

2023年2月28日更新

第215回 「日本の危機」について<その5>

前号でお伝えした「800年周期説」というものを使って、
激動の歴史を振り返って行きたいと思います。
私の本の読者の方はご存じかもしれませんが、
初めて聞くという方もいらっしゃると思いますので、
詳しく説明したいと思います。
というのも、これを理解するかどうかが
あなたの今後の人生・運命を決めると言っても過言ではないからです。

私たちは、“予測のツール(道具)”というものをほとんど持っていません。
明日、何が起きるのか、明日、自分が生きているかどうかもわからない。
将来は真っ暗闇で誰にも予測することはできません。
そんな中で、この「800年周期」を使うことによって、
超長期の人類の文明のトレンドが説明でき、近い将来の大まかな予測もできるのです。
ですから、このコラムを読んでいる方全員にこの「800年周期説」を理解して頂き、
皆さんの人生のあらゆる場面で活用していただきたいと思っています。

まず最初に、「なぜ村山節という人がそのようなものを発見できたのか」
ということを説明したいと思います。
村山節先生は、日本ではほとんど知られていませんが、
世界的には認められた方でした。
イギリスの辞典『Who’s who』という世界の著名人を載せた分厚い人名辞典がありますが、
その中に彼の名が「Misao Murayama」と載っていた程でした
(現在の版に載っているかどうかはわかりません)。

そこには何と書いてあるかというと、
「統計学者」「歴史を統計的に研究した人」というような書き方をしていました。
「歴史」というものをどういう風に見るか、ということなのですが、
たとえば司馬遼太郎などは坂本龍馬や西郷隆盛など、
人物に焦点を当てて歴史を描いています。
村山節先生は「巨大な文明のトレンド」を統計的に研究し、それを細かく図に記しました。
そういう歴史の研究の仕方をしたのは、世界でもおそらく初めての人なのではないかと思います。
あまりにも壮大な学説なのですが、大学にも属さずに研究されていたので、
日本ではなかなか認められていないのです。

そこで、まず下の図を見て頂きたいのですが、
文明というのは「西洋」と「東洋」に分かれます。
「西の文明」と「東の文明」が交互に、
つまり一方が盛んな時には一方が没落するというサイクルを、
800年ごとに交互に繰り返していると800年周期説では説明しています。
そして二つの文明がぶつかる交差点においては、とんでもないことが起きるのです。
つまり文明の交代期には、「戦争」「動乱」「天変地異」「文明の消失」というものが
起きると村山先生は言っています。
そこで、実際にそうなっているのかを見て行きたいと思います。

この図のちょうど真ん中の“800年”と書いてあるところの
前の交差点から見て行きたいと思います。
そこは、紀元でいうと“紀元後400年”となります。
ちょうどそこは、歴史的な大事件が起きた時です。
つまり西の文明が下降期に入って、西の文明の当時の巨大な覇権帝国だった
ローマ帝国がここで崩壊し滅びます。
そして東ローマ帝国は残りますが、ヨーロッパは“暗黒の中世”に入って行くのです。
さらに、ゲルマン民族・その他がローマ帝国内に大移動をして、
ヨーロッパでは玉突き状態で民族大移動が起こり、
それからの400年間、つまり図の「暗黒の中世」と矢印がしてあるところまでの400年間は、
本当に動乱と戦争と殺戮の時代でした。
それがやっとこの図の一番下で収まり、小さな国がいくつもでき上がって行きました。

村山先生が言うには、上記の期間が「冬」であり、
次の400年、つまり一番大底から東西の交差点までが「春」、
春にはフランク王国やいくつかの王国が出て来てそこに文明らしいものができ、
やがて西洋が力を持ちはじめ東洋に対して挑みはじめます。
それが「十字軍戦争」です。
つまり、キリスト教がかつての自分たちの聖地エルサレム、
今で言う“イスラエル”を回復するという目的でアラブへ、つまり東の文明に挑戦したのです。

ですから、今と逆の構図ですね。
最近は少なくなりましたが、少し前までは野蛮なアラブのテロリスト達が
アメリカを中心とした西側にさまざまなテロを仕掛けていました。
当時は、野蛮なキリスト教徒が高度な文明を持ったアラブの国に攻め込んで行くという、
まったく今と逆のことが起きていたのです。これが、「春」です。

次の交差点では、東洋が没落して行きます。
特に中国で見るとその前の、つまりローマ帝国が滅んだ紀元400年頃
(西洋の「冬」の期間)から徐々に「夏」を迎えて、
アラビアには「ササン朝ペルシア」という高度な文明ができ、
中国にはちょうど「真夏」から「秋」にかけて「大唐帝国」という
中国史上最大の帝国ができています。
いまだに日本で中国の詩といえば、白楽天や杜甫などを思い浮かべますが、
これらは全部唐の時代のものなのです。

そしてその後「宋」が出てきて、日本はその宋の文明を室町時代に吸収して、
今の「わび・さび」の世界に繋がって行ったのです。
宋は「秋」の時代の終わりに登場し、
中国を中心にアジアは晩秋から「冬」の時代に入って行くのです。

ちょうどその頃、日本でも平安時代が終わり
貴族中心の平和な文明から武士の時代に移ります。
その交差点では、「源平合戦」が起きました。
平家は確かに武士ではありましたが、貴族になりたいと思っていました。
それに対して源氏というのは、鎌倉に新しい政権、武士の政権を作りました。
鎌倉時代というのは、その源氏の棟梁である源家が
三代で北条家に滅ばされたように、非常に血生臭い時代でした。
その後、中国から「元」に攻め込まれたことをきっかけにすぐに滅んでしまいます。
鎌倉幕府は、最終的には自分たちの御家人によって滅ぼされてしまいます。
そんな凄惨な、暗い時代というわけで、
まさに”冬”の時代の入り口だったわけです。

もちろん、この説だけで歴史の全てを説明できるわけではありませんが、
大きな流れは説明できます。
中国では、宋の時代に徐々に北から異民族・騎馬民族が入ってきて、
最後はモンゴルのチンギス・ハーンが大遠征を行なって中国全土を取ってしまいます。
そして次に中国を統一する「元」は、全く異民族の国家となるわけです。
この間、東洋の方は「秋」から「冬」に入って行きます。

それに対して、西洋は「夏」へ入ります。
「ルネサンス」(文芸復興)と呼ばれる明るい夏です。
つまり、あの暗い“暗黒の中世”の時代に対して、その前のローマ帝国には
ローマ文明が、そしてギリシャという明るい時代があったじゃないか、
それを思い出そう、というのが「ルネサンス」です。
つまり、800年前の自分たちの明るい「夏」「秋」の時代を思い出そう、
というのが「ルネサンス」なのです。まさに「文芸復興」というわけです。

この800年で科学技術が大発展して行き、
西洋は最後に「大英帝国」と「アメリカ」という二つの巨大帝国を生むのです。
そして現在、アメリカの没落が徐々に始まっています。
つまり、この800年の西洋文明の結実とも言うべきものが
「自由」と「民主主義」だったわけですが、
これらがたとえばトランプ前大統領の
「他の国は知らない(関係ない)」というような自国中心主義と人種差別の復活、
さらには「ポピュリズム」(衆愚政治)にとって代わられてきています。

そして、アメリカ自体も分断、
世界も分断という非常に危険な時代に入ってきています。
先ほども言った通り、この文明の交差点というのは戦争、
動乱、天変地異そして疫病、文明の消失といった、とんでもないことが起きる時期なのです。

800年前の西暦1200年には、「唐」「宋」という中国のこの巨大文明が滅び、
そしてアラブもチンギス・ハーンによって多くの都市国家を城ごと潰され、
殺されて滅亡して行ったのです。
日本では「源平合戦」、アジアでは「チンギス・ハーン(大遠征)」、
ヨーロッパの方では「十字軍戦争」という動乱が起こりました。

そして今回(20世紀以降)も、「第一次世界大戦」「第二次世界大戦」
そして現在でも日本の周囲には中国、ロシア、北朝鮮という
核の脅威が出てきています。
アメリカは、中国に対しては何とか優位性を維持しようとしていますが、
オバマ元大統領の頃には「もう、私たちは覇権大国ではない」
「世界(の警察としての役割)から手を引くよ」と言い始めたのです。

そのような中で日本を見てみますと、源平合戦の後、
鎌倉時代という暗い時代があり、その鎌倉幕府はすぐに滅んでしまい、
その後室町幕府ができますがすぐに応仁の乱という大動乱があり、
戦国時代に入って行くわけです。
歴史としては面白いですが、非常に大変な時代であり、
ちょうど図の大底にあたる1600年には「関ヶ原の戦い」が起こって
ようやく日本全土が統一されて行ったのです。

不思議なもので、非常に流動的な時代から徳川幕府という
260年間も続く安定した時代に入って行くのです。
武士と言ってもそれまでの戦国時代のような
腕力が強いものだけが勝って行くのではなく、
精神性を極めた「武士道」というものができ、
学問を修めた武士たちが非常に高い倫理観を持って治めて行くという、
世界にも珍しい「江戸時代」というものができ上がり、
その中で庶民の文化が花開くのです。
浮世絵、俳句、歌舞伎などが生まれ、
食文化においても蕎麦や寿司が出てきました。

そしてその江戸時代も、最後には西洋からペリーが来ることによって
日本が海外から侵略されるのではないかという不安に襲われ、
その中から尊王攘夷思想のもとに「明治維新」という革命が起きます。
そして、現代に至るわけです。

その後日本は、アジアの中で一番最初に欧米化し、
日露戦争の後の夜郎自大の軍国主義へと突き進み、
してはいけないアメリカとの戦争に突入し、
敗戦後、アメリカに一時的に統治されることによってアメリカ的な社会になって行き、
ご存じのように現在はアメリカと同盟を結んでいます。

ただし、西洋が没落していく中で今、
中国が大変な勢いで台頭してきているわけですが、
日本は西洋と東洋のはざまでこれからどうやって生き残って行けばよいのかという、
非常に重大な局面に来ているのです。

ですから800年周期を見ると、
単に日本の財政危機が来て国が破産しそうだという問題、
もちろんこれも大変な問題ではありますが、
それ以上に世界が大動乱期に入っているという大問題に直面していることがわかるのです。

「800年周期説」では、超長期の予測が可能である。
いま、私たちの置かれている状況も、
まさに「800年周期説」が示している状況と
怖いくらい似通っている。
動乱の時代を心して生きて行きたいものだ。
      (2022年11月 石垣島にて)