天国と地獄
 

2022年8月22日更新

第204回 ダイヤモンドと宝石<その1>

今回は、少し特殊なお話をしたいと思います。
「ダイヤモンドと宝石」というお話です。
女性の中にはキラキラ光るものが大好きで、
ダイヤモンドの指輪を持っている人も多いことでしょう。
旦那からもらった婚約(結婚)指輪のダイヤモンドが、
「なんでこんなに小さいんだろう……」と嘆いている人もいるかもしれませんね。

ここで言うダイヤモンドとは、天然のダイヤモンドのことです。
昨今、人工のダイヤモンドも流通していますが、どんなに精巧なものでも
GIA(米国宝石学会)などの専門機関では、その違いを判別することができます。
ですから、人工ダイヤも良質なものが増えていますが、
あくまでもアクセサリーとして使用するものとなりますね。
資産価値という面では、天然ダイヤにはかないません。
事実、両者には大きな価格差があります。
やはり、価値があるのは天然ダイヤなのです。

ダイヤモンドと言えば、「デビアス社」が有名です。
「婚約指輪は月給の3ヵ月分」――これはかつてデビアスが作った宣伝文句ですが、
これを作ったコピーライターは大したものだと思います。
このキャッチコピーは、日本でも広く受け入れられました。
この戦略が象徴するように、デビアスは世界中にダイヤモンドを広め、
長らくダイヤモンド市場をほぼ独占し、ダイヤモンドの価格を支配してきました。
ちなみに、21世紀に入るとロシアなどが台頭し、
以前に比べるとデビアスの価格支配力は低下しています。

ところで、私がダイヤモンドを中心とした宝石に興味を持ったきっかけは、
私がちょうど20歳の時の体験からです。
今までのコラムでもお伝えしましたが、私は大学3年の時に1年間大学を休学し、
海外渡航費用を稼ぐために4月から7月までいろいろなアルバイトをしていました。
当時はインターネットなどなかった時代ですから、
学生援護会が作った学生向けのアルバイト募集専門誌をひたすらめくりながら、
時給が高そうなものを選んで働きました。

そんなアルバイトの中には、「工場のタンクの中の掃除」という仕事もありました。
真っ暗闇の中、マスクも防護服も着けずに懐中電灯を手に持ち、
ヘルメットとゴム手袋だけをつけてタンクの中を洗うのです。
それは、化学物質が入っていたタンクでした。
時給は高かったのですが、こんなところに何日も入っていたら
ガンになって死ぬなと思い、すぐに辞めました。

「こんにゃく屋さん」でも働きました。
製造の手伝いなのですが、腕で抱えられないほど大きな鉄製の容器に
水とこんにゃくの原材料を入れて作ります。
もし、熱湯が入った容器がひっくり返ったら、即死です。
これも、2週間くらいで辞めました。

これらも含め、いろいろなアルバイトをしながらお金を貯めて、
約6ヵ月間ヨーロッパを見て回りました。
お金はありませんでしたが、時間だけはたっぷりあったので
いろいろなものをじっくり見ました。
お金を節約しつつ、博物館や美術館にも行きました。

その時の思い出のひとつが、
ロンドン塔(TOWER OF LONDON)という砦の跡地です。
ロンドンのテムズ川のほとりにあります。
今から300年ほど前の話ですが、当時は権力争いが激しかったため、
女王メアリーは妹のエリザベスに女王の座を乗っ取られることを恐れ、
エリザベスを牢獄に押し込めてしまいます。
その時の牢獄の跡地が、ロンドン塔なのです。
ヘッジファンド運用で有名な、マン社の本社がそのすぐ裏にあります。

当時、そこにイギリス王室の宝物館がありました。
地下に巨大な金庫があり、有料で見学することができました。
そこにイギリス王室が所有する「偉大なアフリカの星」(カナリアン1世)
というダイヤモンドが展示されていました。
何カラットあるのかわかりませんが、4~5cmほどもある大きなダイヤモンドです。
確か、世界で2番目の大きさだったと思います。
当然警備も厳しく、衛兵が2~3人いて「Move! Move!」(止まるな!)と言うのです。
ダイヤモンドの前で立ち止まり、じっくり鑑賞することは許されませんでしたので、
直視できたのは20秒くらいだったでしょうか。
それでも一生忘れられない経験でした。

当時、学生だった私にはダイヤモンドなどの宝石を買う余裕などありません。
そもそも、こういうものは女性が身に着けるものであり、
男が関心を持ったり身に着けるものではないという思いもありました。
しかし、その大きなダイヤモンドの眩しい反射光を見た瞬間、クラクラっとしたのを覚えています。
体ではなく、脳が振動したという感じで、その時の衝撃は今でも忘れられません。
「宝石というものは、人間を魅惑するんだ! 感動させる力があるんだ!」と思ったものです。

「偉大なアフリカの星」という名前を記憶するほど、
20歳の私にとっては強烈な思い出です。
新聞社に就職後も給料は安く、宝石などとても買える身分ではありませんでしたが、
独立して多少お金に余裕を持てるようになってからは、
ヨーロッパを旅した時などにアンティークの宝石を、少しずつ買うようになりました。

百数十年以上前は、ダイヤモンドは最も価値のある宝石ではありませんでした。
ルビーなどの、色がついている宝石の方が価値が高かったのです。
当時は、ブリリアントカットなどという技術はありませんでした。
実はダイヤモンドは、ブリリアントカットで加工しないとあれほど美しくは光らないのです。
ブリリアントカットは、角度を計算してダイヤモンドに差し込む光を
最大限に反射させる究極の形状と言われます。
ですから、何百年も昔のアンティークで四角いものや長方形に近いもの、
あるいは丸い形のダイヤモンドはそれほど輝かないのです。
そんな単なる透明の石に、昔の女性たちはそれほど反応しなかったのではないでしょうか。

宝石の代表とも言えるダイヤモンド。
資産として持つことも有効である。

私は学生時代にイギリスで宝石を見て衝撃を受けてから、
海外などでも宝石博物館などに足を運ぶようにしている。
古代から、人類は美しい宝石にあこがれてきたのだ。
(2022年8月 山梨・小淵沢にて)