天国と地獄
 

2021年7月26日更新

第172回  中国と私 <その3>

さて、再び中国に話を戻しましょう。
中国がこのようになったのは、共産党がどうこう言う以前に
歴史的な背景からくるものの方が大きいかもしれません。
というのも、「三国志」や「水滸伝」などを読んでもわかるように、
4000年、5000年という壮大な歴史の中ではあらゆる騒乱が起き、いろいろな戦争が起きました。
それこそ、屈強な騎馬民族が幾度も押し寄せて来て、
対抗するために「万里の長城」を作ってしまうほどの争いです。
もし負ければ、男で優秀な者は全て殺されてしまうか奴隷で連れて行かれ、
支配されてしまうという世界です。
そんな中で育ってきたのですから、生き残りをかけて智略を巡らせるのは当然のことなのです。

むしろ、お人好しにも相手を信頼して騙される方が悪、という考え方です。
島国に住み、お互いを信頼して協力して米を作り、
外敵が攻めて来たとしてもせいぜい「元寇」位で、
神風が民族を助けてくれたなどという日本との感覚の差は歴然です。

当時ほど今の中国は露骨ではありませんが、それでも本質は同じです。
中国に進出した日本の企業は大体が中国政府の言いなりで、
状況が悪いからと撤退しようとすると、とんでもない代償を迫られます。
状況が中国にとって好都合な時は笑っていますが、
ちょっとでも不都合なことがあると即座に平気で手のひらを返すわけです。

尖閣諸島問題で今より揉めていた、数年前を思い出してみてください。
中国国内の日本の企業は、投石されるわ、現地の労働者が荒れるわ、やられ放題でした。
あれも全部、中国政府が先導してやったわけですから、
いざとなればそれ以上のことを平気でしてくることは明らかです。

私は中国という国とは、中小企業は絶対に関わってはいけないと思っています。
もし、やるとなったら命がけです。ベトナムもそうです。
それこそ、現地人と結婚して現地に家族を持ち、
頭のてっぺんから足の先まで現地の社会に浸かり、
いずれは骨を埋めるくらいの気持ちでやらないとだめです。
本当に成功したいなら、向こうの名族か共産党の高官の娘と結婚し、
そこから情報を聞けるくらいでなければ無理でしょう。
中途半端な気持ちであのような国と付き合ったところで、
私は成功などできないと思っています。

別に、中国人やベトナム人が良いとか悪いとかいうつもりはありません。
彼らと私たちでは、生きてきた歴史が、そしてそれによって育まれた常識や倫理観が、
人生や家族、社会に対する考え方などあらゆるものが、あまりにも違いすぎるのです。

中国共産党というのは、相手を騙すのが当り前というのが流儀というか、やり方なのです。
尖閣などもそうですが、南シナ海のフィリピンとベトナムに程近いサンゴ礁に
勝手に島を築き、人を置いて勝手に支配してしまう。
相手国がそれに抗議して報復に打って出ようものなら、
それを口実に本格的に軍隊を送り込んで機関銃でも大砲でも打ち込んでしまおう、
という発想です。したたかというか、実にすごい国家だと思います。

こんなやり方で周辺国と渡り合うのが中国ですから、
私は中国という国と付き合うには、余程覚悟して付き合わなければだめだと思うのです。
今後、日本は外交だけでなく国防などに関しても
もっと辣腕を振るわなければ対抗できなくなるでしょう。
その意味では、今の菅さんでは全くだめですね。安倍さんでも無理でした。
もっと、凄みのある政治家をトップにしなければだめでしょうね。

私が初めて中国ツアーを組んだのは2000年頃ですが、
その時お金をぼったくられた経験は、本当に勉強になりました。
そのころの私はまだ結構若くイケイケドンドンで、なんでもどん欲に挑戦していました。
第二海援隊は資本金も大きいので、
その時は中国にも何か大きく進出しようと思っていたのです。
ですから、この経験で出端をくじかれたのは、むしろ幸いでした。
それをやっていたら、いまごろ第二海援隊は存在していないかもしれません。

中国については、こんな例を引いてよいものかわかりませんが、
パナソニック(かつてのナショナル、松下電気)もえらい目にあっています。
松下幸之助さんは、経営者としては神様のような人ですが、
中国のことを甘くみていたと思います。
日本が日中戦争の時に中国にひどいことをしたので、
中国に何か返したい、という思いがあったのではないでしょうか。
中国の人たちに「真似しなさい」と言って、自分の工場をどんどん見せたのです。

彼らは日本の技術を、ノウハウをどんどん盗んでいき、
そして今では逆にファーウェイなどの様に
中国の方が日本よりすごい会社を生み出すようになりました。
何しろ、中国という国は国策で各国に企業スパイを送り込み、
企業機密を全部持って行き、それを全部真似することで産業を強化してきて、
今や日本の企業を上回るようになったわけです。

率直に言って、日本の電機産業は中国と韓国に潰されたと私は思っています。
いまや、ソニー以外は壊滅状態ですね。
ほとんど見る影もなくなってしまいました。
しかしこれも、「したたかな中国とお人好しの日本」のなせる当然の結果なのかもしれません。
なにしろ、彼らからすれば「盗むのはしたたかに生き残る者、盗まれるのは愚かな者」
なわけで、盗まれる方が悪いわけですから。

私は、松下幸之助さんのことを尊敬していますが、
松下幸之助さんや徳間康快さんでさえ騙されるくらい
中国というのはすごい国なんだな、と思いました。
幸い、私は前回書いたように多少ぼったくられはしましたが、
それ以上騙されはしませんでした。

シンガポールを含め、アジアの国でビジネスをやることは、
本当に難しいと今でも思っています。
現在では、日本よりシンガポールの方が給料も上になり、
裕福になったため話が変わってきていますが、
もともとアジアというのは日本のことを金持ちだと思っているので、
日本人からぼったくってもよいと思っているのです。
そして法律も、あるようで実はないのです。
「法治国家」というのは西洋発祥で、アジア諸国にも遅れて持ち込まれましたが、
ほとんどの国ではいまだに「法治国家らしからぬ部分」が非常に多く残っています。

その点、白人、特にイギリス系の白人国家というのは法律をきちんと守ります。
ですから、イギリス、ニュージーランド、オーストラリアなど
(アメリカはちょっと怪しいですが、それでも法律を守るという体面は大事にしますよね)、
イギリスをもとにしている国の場合、弁護士を立てれば大体はコトがうまく運びますし、
ビジネスをやるにしても、法律が変わることはあっても
法律無視で全部持って行かれるなどということはありません。

そのため、昔から私は言っているのです。
「アジアでビジネスをやるということは、本当に大変なことだよ、
最後はなくなることも覚悟だよ」と。
2000年の中国ツアーに行った時に、身をもって経験したからです。
そして、私が書いた『チャイナ・プロブレム』の内容は正しかったのだな、
ということも実感しました。

中国で単行本を出版し、人民大会堂で取材を受け、
要人を招いて出版記念パーティを開くなど、
普通ならできない経験をさせていただいた。
それでも私は、その後二度と中国ビジネスには手を出していない。
  (2000年4月 中国・人民大会堂にて)