天国と地獄
 

2019年11月25日更新

第112回 対馬への弾丸取材<その2>

 

前回に続いて対馬の話をしたいと思います。
それは、お土産屋さんでの出来事です。

私の父親は現在94歳で、少し年下の母と茨城県で仲睦まじく暮らしています。
その2人に対馬の美味しい魚を送ろうと思ったのです。
すると、たまたま車で通りかかった港にまさにうってつけの海鮮を中心としたお土産屋さんがありました。
新鮮で、しかも安い魚がたくさんあったので、まさに爆買いと言わんばかりに
買い物かごを一杯にしてレジに行きました。
私は地方に行った際は、ご当地のお土産をいつも大量に購入して宅急便で自宅や実家に送ります。
ですから、その時も当たり前のようにレジの人に、「宅急便でお願いします」と頼みました。
すると仰天、「宅急便はやってないよ」と言われたのです。
人生で一番驚いたとは言いませんが、驚きで思わず「えっ!?」と声が出てしまいました。
どんなへき地でも、基本的に日本国内のお土産屋さんでは
冷凍も含めた宅配サービスを実施しているものだと思っていました。
店側としても、やって損はないでしょう。
観光に力を入れる北海道では、どんな田舎でも宅配サービスがあるのではないでしょうか。

私は正直、あまり良くない意味で「商売っ気がないのだな」と思い、ある意味、感動しました。
結局、買い物かご一杯だった魚を冷凍庫に戻し、イカの燻製など乾き物を中心に買いました。
本当は2万円くらい買う予定だったのですが、3000円で済んでしまいました。
でも新鮮な魚を買えずに残念でしたし、店側も収益機会を失ったわけです。
誰も得をしていません。その時は、「何でなのかなぁ?」と特に気にも留めませんでしたが、
取材を進めるうちに後からいろいろな仮説が浮かび上がりました。

前回も触れましたが、対馬滞在の最終日にこの島を長きにわたって統治していた
宗(そう)家の菩提寺(お墓)を見に行ったのですが、そのあまりにも立派な姿にびっくりしました。
あれだけの立派なお墓、下手をすると将軍家のそれよりも立派なお墓を作れるということは、
莫大な富があったという証拠です。宗家には、どうしてそれほどの富があったのでしょうか。
日本はペリーが来航するまで本土の東側、つまり太平洋はただの海でしかなく、
「何もない」という認識でした。東側からは文明は来なかったのです。
必ずと言っていいほど、文明や文物は朝鮮半島、もしくは大陸(中国)からやって来ていました。
あるいは、さらに西方からシルクロードを通り、最後は朝鮮半島か中国を経由して渡来してきたのです。
そうすると、西端に位置する対馬は、必然的に交易の拠点となる運命でした。
現在では軍事上の要衝というイメージが強いかもしれませんが、
かつては今以上に経済面でも要衝であったのだと思います。
さらに対馬には、銀山もありました。
もしかすると宗家は、日本の大名の中でもトップクラスの財力を誇っていたのかもしれません。
それほど、すごいお墓でした。

お墓の立派さは、
将軍家にも勝るとも劣らないのではないかと
思われるほどだった。
総じて南国のお墓は敷地が広いものだが、
広さだけではなくお墓の作りが立派なのだった。

(2019年10月 長崎県・対馬にて)

経済的な要衝に位置しているというのは、一見すると良い面ばかりあるように思ってしまいます。
しかし、「棚からぼた餅」という状態に慣れ切ってしまうという、
負の面を見過ごすわけにはいきません。
対馬も例にもれず、元寇などの大きな被害が出たこともありましたが、
島民は基本的に裕福な暮らしに安住していたのではないでしょうか。
現地でいろいろな方に取材をすると、多くの人がこう言っていました
――「実際のところ、ここは殿様商売の島なんですよ」と。
さらには、「自分たちで努力して何かをやろうという気持ちは、あまりない」と言うのです。
対馬の人たちを悪く言うつもりは毛頭ありませんが、極端な言い方をしてしまえば、
「カネは天から降ってくる」という伝統があるのかもしれません。

もちろん、現代ではそうした状況にはありません。
しかし、長きに亘って交易と銀山で潤っていたため、
今でも島民の間にその意識が残っているのかもしれません。やはり、自助努力は必要です。
しかし、これは対馬に限った話ではありません。
全部とは言いませんが、日本の地方の多くは似たり寄ったりの状況にあると私は感じています。
大した努力はせず補助金ばかりを当てにし、困ったときだけ国に文句を言うのです。
確かに、東日本大震災や今回のような大水害の時は、国が率先して支援しなければなりません。
しかし、「景気が悪くなってきたから」もしくは「少子高齢化で老人ばかりになり、産業もないから」
もっと補助金を出してほしい、といった発想ばかりではダメになるのも当然です。
しまいには、日本全体が滅びてしまいます。

私は現在の安倍政権の経済政策にはかなり批判的です。
極論かもしれませんが、アベノミクスは低金利政策を利用したバラマキでしかありません。
しかも、低金利政策は本来であれば起こり得る経済の新陳代謝を阻害します。
ゾンビ企業を増殖させるのです。ですから、やるべきは経済の新陳代謝を促し、
ひいてはイノベーションが生まれるような環境を作ることなのです。
確かにアベノミクスが始まってから、株価も勢いを取り戻し、大企業を中心に業績が上向きました。
しかし、これは政策の効果というよりも世界経済が好況サイクルにあったから、
その影響であるとも考えられます。
今年の7月に、米国の景気回復局面は史上最長を迎えました。
けれど、ご存じのようにそのサイクルもそろそろ終わりに差し掛かっています。
今世紀に入ってから世界的な金利低下によって、
景気サイクルが長期化していると指摘されていますが、
それでも永遠に続く好景気はありません。
製造業の観点で見ると、世界経済はすでに減速しています。
米国の景気後退入りも、確実に迫ってきていると考えるべきです。
大胆かもしれませんが、世界全体の債務レベルが先のリーマン・ショック時よりも増えていることから、
私は2020~2022年あたりに大恐慌に近い世界的な経済危機がやってくるとみています。
また2025年以降には、日本も財政危機に瀕するでしょう。
話をアベノミクスに戻しますが、
アベノミクスは基本的に従来の自民党型の政策を踏襲しているにすぎず、
景気サイクルの延命に焦点を当てています。
平成に入って以降、自民党の打ち出す政策はどれも似たり寄ったりで、
イノベーションをサポートする要素がはるかに少なかったように思います。
これは、自民党の完全なる失策です。

ところで、イノベーションというのは「技術革新」と訳されますが、
好例がスマートフォン、その象徴がiPhoneでしょう。
アップル社の創設者であるスティーブ・ジョブズはiPhoneが完成した際、
「これが世界を変える」と言い放ちましたが、実際にスマホの登場は世の中を変えました。
かつて日本のソニーが「ウォークマン」という商品を出しましたが、
ウォークマンよりもスマートフォンの方が革命的だと私は思います。
ウォークマンは、もともとあったテープレコーダーをソニーの当時会長であり創業者の一人でもあった
盛田昭夫氏の「海外出張の際に小さなテープレコーダーで音楽を聴きたい」という発想から生まれています。
録音機能を外して再生機能だけにし、そこにカセットを入れてイヤホンをつけたのです。
でも、これは今まであったものを小型化したに過ぎません。
確かに大ヒットし、人々のライフスタイルを変えました。
とはいえ、革命的な変化とは言い過ぎでしょう。
スティーブ・ジョブズもソニーを尊敬し、ウォークマンを愛しましたが、
彼が作ったiPhoneの方が革命的です。
数年前まで「デジタル・デバイドおじさん」と呼ばれていた私でさえ、
最近はiPhoneの最新機種を持つようになりました。
確かに高額ですが、カメラ機能を見ても3つレンズがついており、超望遠も簡単に撮れます。
これで対馬の自衛隊の基地も撮影しました。しかも4Kです。
極論すると、高性能のスマホ1台で何でもできます。
撮影も、買い物も、映画や音楽鑑賞も、スケジュール管理も、
そして株や日経225オプションの取引もできてしまいます。
私は、こういうアイデアや技術を開発するために国はお金を費やすべきだと思います。

対馬では驚いたことがまだあります。
山ばかりの島ですから至るところにトンネルがあるのですが、
なかでも立派なトンネルだと全長1.8キロもあり、しかも歩道まで付いているのです。
トンネル内の歩道の利用者など、ほとんどいないように思います。
このトンネルを作るのに、数百億はかかったことでしょう。
当然、車はそんなに走っていません。
そこは幹線道路でしたが、交通量がもっと少ない場所にも立派なトンネルが多くありました。
確かに生活者にとってはインフラは必要ですが、もっとお金をかけなくても済むのではないでしょうか。

私が好きなニュージーランドは、徹底しています。
この国は税金の使い方に対して非常に厳しく、
田舎に行くと世界的な観光地でさえ平気で橋が一方通行だったりします。
日本の橋は基本的に二車線ありますが、NZでは一方通行が珍しくありません。
橋の前後に信号がないことも当たり前です。
「この先には一方通行の橋があるので気を付けてください」というような看板はあります。
方側の入り口に「優先」という案内が出ていれば、
逆側の入り口には「止まれ」という案内を出すなど、工夫が見られます。
しかし、たったこれだけなのです。
それで事故が起きたら自己責任ですが、私はこれくらい簡素で良いのではないかと思うのです。
トンネルが必要なら、一方通行にして信号機を付ければ良いのです。
交通量が少ない箇所に二車線は必要ないでしょう。
そこに何十~何百億もかけてトンネルを掘るなど、私から見ると「頭がおかしい」レベルです。
これは、対馬を批判しているわけではありません。日本全体がそうなのです。

インフラは、維持も大変です。
高度成長期に作られたインフラは、これからどんどん更新時期が訪れます。
インフラの更新は、それを新たに作るよりもお金がかかるとも聞いたことがあります。
なんと、浜松市だけで実はこれから1兆円のインフラ更新費用が発生すると言われています。
あんな小さな市で、1兆円の費用を捻出するのは不可能です。
もちろん、浜松市だけではありません。日本の全都市が、今後は深刻な財政危機に瀕するでしょう。
公共投資に依存してきたツケですね。
自民党と公明党、そしてそれを良しとしてきた国民のせいでもあります。
日本人には、「甘えの構造」が染みついてしまったのでしょう。
これは悲しむべきことですし、変えなくてはいけません。
断言しますが、真に自助努力が必要な時代が間もなく始まります。
それでも国民や政治の体質が変わらなければ、
待っているのは国の破産によるなかば強制的な重税、そして過酷な財政インフレです。
いよいよ、その分水嶺が近づきつつあるな、ということを実感した対馬の取材でした。
全長1.8キロもある立派なトンネル。しかも歩道付きだ。
歩行者どころか、トンネルを通る車さえほとんどいない。