天国と地獄
 

2019年3月5日更新

第86回 地獄から天国へ<前編>

 

私は今、ニュージーランドにいます。
1月31日に日本を発って、2月1日からこちらにいるのですが、
ちょうどひと月位前に居た場所と比べると天と地ほどの差があります。
すでにこのコラムでお伝えしましたとおり、昨年末から今年の正月にかけて、
私は南米に3週間弱居ました。
当初は混乱を極めるベネズエラの現地取材を計画したのですが、
あまりにも危険だということで予定を直前で変更し、
近隣のキューバや過去何度か破綻し今も経済が厳しいアルゼンチンでベネズエラの取材をしました。

ニュージーランドも不動産価格の高騰で
ホームレスが先進国中最悪なのは
第78回コラムでもお伝えしたとおりだが、
治安や政治が守られている点は
南米諸国とは比べられないほど良く、
まさに“楽園”である。

(2019年2月ニュージーランドにて)

NHKなども含め日本のテレビやマスコミで報道されているキューバは、
50年前のクラシックカーが残り、日本の古き良き時代を連想させるものがあります。
私もそんなイメージを持ちながら、お正月はカリブ海でハバナクラブというラム酒で乾杯し、
ヘミングウェイよろしく素敵な時を過ごそうと思っていたわけですが、
前回お伝えしたとおり結果はとんでもない国でした。
空港でWi-Fiのルーターを取り上げられた上に3時間にわたる尋問、
現地で雇ったガイドはほぼ間違いなくスパイ(監視員)と、かなり嫌な思いをしました。

そして、アルゼンチンも酷い状態でした。
過去の栄光の名残りである世界一の大通り(14車線の道路)があり、
両脇にはパリを思わせる建物が立ち並ぶのですが、
一歩裏通りに入れば都心でも道はボロボロの状態です。
しかもそこかしこにごみは放置され、今にも潰れそうな商店が立ち並び、
公園のあちらこちらに浮浪者がいました。
治安も言わずもがなで、かなり悪い状態です。

アルゼンチンの南の端、チリにまたがるパタゴニアと呼ばれる地域に
大氷河を見に行った時には、生きた心地がしませんでした。
国内線のターミナルからタクシーに乗ったのですが、
そのタクシーも前回のコラムに書いたキューバのタクシー同様かそれ以上のおんぼろ車でした。
後ろのドアが閉まらない状態で、もちろんシートベルトも付いていません。
日本では車を10万キロ、または10年を目安に買い替えたりしますが、
この国では30年、40年前の車を平気で使っている感じです。
エンジン音か何か分からない音がすさまじく、
車輪はいつ取れても不思議ではない状態でした。
その車でなんと時速100キロでぶっ飛ばすので、本当に怖くて、死ぬかと思いました。

クラッシックカーと言えば聞こえがよいが、
大分古い型の車がタクシーとして使われている。
そして、例外なくぶっ飛ばすので、
生きた心地がしない。

(2019年1月キューバにて)

それと比べると、今居るニュージーランドは本当に天国です。
この楽園でひと心地ついたところで改めてキューバやアルゼンチン、
あるいはベネズエラがなぜダメになったのかを思案してみました。
そこで浮かぶのは、政治の重要性です。
政治がダメになると、国家は混乱します。
特にベネズエラは悪名高き独裁者であるニコラス・マドゥロ大統領が
自分とその側近のわずか100人のための政治を行なっており、
そこにロシア、中国、キューバなどが後押しするという滅茶苦茶な政治運営をしています。
その結果、国家は破産し、1000万%のハイパーインフレが起きました。
ベネズエラの人口3,000万人のうち、1割以上が海外逃亡してしまいました。
しかも、どの国もそうなのですが、国家破産した時は優秀な人から順に逃げ出してしまいます。
現状を打破するために政府に抗議でもすれば、
それが国家にとって有益な若者であろうとおかまいなしに捕まえて、
拷問したり殺してしまったりするのですから、逃げ出すのも当然ですね。

独裁国家であるベネズエラでは、これほど極端な悪政を敷いているわけですが、
それが私にはどうも他人事には見えません。
日本は衰えたとはいえ、いまだ世界的に経済力が強い国ですし、
最近税収も増えて景気も以前より良くなってきています。
そしてこれらがアベノミクスのお陰だと言われています。
ただし、裏を覗けばこれまで以上に借金を膨らまし、
日銀が国債やETF、リートなどあらゆるものを買い漁り、景気を支えているのです。
そんな状態をマスコミを始めとした世間では、「アベノミクスは上手くいっている」と言っているのです。

私は元々新聞社にいたこともあり、
政治とともにマスコミの重要性を痛感しているのですが、
一般の国民はマスコミを通じてでしか直接物事を知りえない訳です。
ですから、マスコミには中立な立場が求められます。
時には政権が行なう悪事を暴いたり、批判したりすることが必要です。

今、世界中で独裁が広がっています。
ベネズエラしかり、キューバもしかり。
中国でも習近平が独裁体制をとっており、
アメリカのトランプ大統領もそこまでひどくはないものの、
マスコミと対立する独裁的な政治家と言えます。
ある意味、世界は非常に危険な状態に入ってきていることを
皆さんには肝に銘じて頂きたいと思います。