天国と地獄
 

2018年9月25日更新

第70回 思い出のルーブル

 

パリでは、最後にルーブル美術館に行って来ました。
ルーブル美術館には学生時代に何回行ったかわからないほど行って、
一日中そこにいた思い出があります。
20歳の時ですから、もう43年前のことです。
パリに滞在していた時期は10月末頃で、季節は秋でした。
バカンスも終わっていて、今のように世界中から外国人が来ていたわけでもなく、
もちろん中国人団体客などが大勢で押しかけて来てもいませんし、
ルーブル美術館は空いていました。

「モナリザ」などは、今とは違う小さな部屋に置かれていました。
その部屋の中には絵画が3枚ほどあるだけで、
モナリザだけが大きな壁に1枚、飾られていました。
たまに人が来る程度でしたので、私は2時間その部屋にいて、
あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながらいろいろな方向からモナリザを観て、
感慨にふけった思い出があります。
ご存じかもしれませんが、今ある「モナリザ」は本物かどうかわからないのです。
戦前に一度、盗まれているのです。
それが返っては来たのですが、本物かどうか、いまだにわからないと言われています。
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品で「不思議な微笑」と言われるモナリザは、
「ルーブルの至宝」あるいは「世界の至宝」とも称されています。

今やモナリザの前には、
私が行った午後3時半頃には500人くらいの人だかりができていました。
近くに寄ることさえできないし、
はるか遠くの方に絵があって「あれがモナリザかな?」と思うような状況でした。
中国人は大騒ぎをしているし、雰囲気も何もあったものではないです。
前に行こうと思っても、行けません。
15分くらい待って、やっと少しずつ少しずつ前に進んで行くような状況でした。

ルーブル美術館自体、私の学生時代とは違っていて驚いたことがあります。
それは、今は地下から美術館の建物の中に入るのですが、
その地下街にいろいろなお店が入っていて、
まるでショッピングセンターのようになっているのです。
ここは一体、どこなのだろう?美術館なのかデパートなのか?
という感覚に陥りました。
昔の風情はなくなっていて、本当にがっかりしました。

「モナリザ」前の黒山(?)の人だかり。
絵画観賞という雰囲気ではない。

私が訪れたのは1975年でしたので、
まだ戦後の雰囲気が残っている最後のヨーロッパだったのです。
ですから、私は良い時期に、
しかも私自身も心が若くて感受性が大変豊かな時期に、
ヨーロッパを堪能することができました。
お金はなくて貧しかったのですが、あふれるほどの時間がありました。
その経験があって今、再びヨーロッパを訪れて
「こんなに変わったのだなあ」としみじみ感じることができます。

しかし、思ったよりパリの景気は良いようです。
テロの影響をまだ受けていて、
日本人観光客はテロ以前と比べたらいまだに半分くらいだと聞きましたが、
中国や韓国からの観光客は増えているそうです。
日本人は、やはり敏感なのでしょう。
日本文化ブームとルーブル美術館の混雑のすさまじさをはじめ、
いろいろと見てきましたが、
実はパリにはもうしばらくは行きたくないなぁと思っています。
喧騒と乾燥と工事のほこりがとても目に染みた、そんなパリでした。

まるでデパートか
ショッピングセンターのようになっている
ルーブル美術館地下入口。

(フランス・パリにて 2018年7月)