天国と地獄
 

2018年3月15日更新

第51回 日本の置かれた状況を考える(上)

 

私は今、司馬遼太郎の「坂の上の雲」という本を読んでいます。
皆さんも読まれたことがあるかもしれませんが、
実はこの本を読むのは、もう4回目くらいになります。
私は「これは!」という本は、何度も何度も読みます。
本は、人生の成熟度によってまったく違う感想や思いを持つものですし、
その時に自分の考えていることややろうとしていることに対して、
毎回違うメッセージや教訓を与えてくれます。
「坂の上の雲」ですが、まだ読んだことがない人にはぜひ読んで頂きたい本です。
7、8年前にNHKでドラマとしても放送されましたので、ご存知の方もいるかもしれません。
明治維新の直後から日露戦争終結までを描いた壮大な歴史ドラマなのですが、
これを読んでつくづく思うのは「今の日本との違い」です。

当時はご存知の通り帝国主義の時代で、日本はまだ列強になっておらず、
イギリス・フランス・ドイツ・ロシアを中心とした列強各国は、
アジア・アフリカ、それから今のアラブ諸国の弱い国々を植民地にして、分捕り合戦をしていました。
そしてロシアは、アジア・極東において南下政策を進め、
最終的には朝鮮半島までもロシアの領土にしたいと考えていました。
日本は明治維新後30数年経っており、そんなロシアの南下を食い止めようとしました。
なぜかというと、そのまま南下政策が進んで行って朝鮮半島をロシアに取られれば、
その次は日本が取られてしまう、つまり日本がロシアの植民地になってしまうからです。
これだけはなんとしても避けたい、独立国家として自分たちの命と名誉を守りたい、
そういう中で日露戦争が勃発したのです。

それに対して今の日本はどうかというと、
テストとはいえ北朝鮮が日本の頭上で核ミサイルを飛ばしても、
多少騒ぎはするけれど国民的な盛り上がりにはなりません。
戦争用の核は積んでいなくても、
将来的に核を積めるレベルにあるミサイルを飛ばしているにもかかわらず、です。
私は別に右翼ではありませんし、安倍首相に対しても、
財政を破たんさせようとしている張本人という意味では批判もしていますし、
憲法改正に関しても100%頷けるわけではありません。
ただやはり、自分たちの命が脅かされる、
あるいは自分たちの国が将来どこかの国に取られるかもしれないというような脅威が出てきた時、
それに対して国民が何もしない、あるいは思考停止している、
平和ボケしてしまってこういう問題について考えもしないし議論もしない、
という今の日本の状況には危機感を持っています。

戦後の日本人は「平和ボケ」とよく言われますが、
ぼーっとしていないで“日本の国を守る”“私たちの生活と安全を守る”という
防衛という意味を真剣に考える必要があると思います。
また、以前から私が警告しているように、
この国は今、政府が多額の借金を抱えている異常な財政状況です。
将来、破たんすることはほぼ間違いないだろうと専門家も言っています。
まさに「防衛上のリスク」と「財政上のリスク」が今、極限にまで達しているわけです。

私は、北朝鮮のミサイル問題を「短期的問題」だと見ています。
それよりも長い30年、40年、50年、あるいは100年単位で考えると、
次に問題になるのが「中国」です。
中国は日本の目の前にある国で、
共産党という一党独裁政権が特別な意思と意図を持って
将来的に日本を飲み込もうとしています。
日本国民でそれに対して切実な危機意識を持っている人は、あまりいません。
私は、これが恐るべきことだと思うのです。

幕末にペリーが4杯の黒船で来航しただけで、日本は大騒ぎになりました。
確かに「夷狄」とか「尊皇攘夷」という言葉に表わされるように、
今から見たら気違い沙汰とも思われる状況になりましたが、
その時の日本人は“自分たちの国が侵されるかもしれない”ということについて、
ものすごく敏感に反応したのです。
それが明治維新の原動力となり、やがて開国して欧米諸国に追いつき追い越せと、
全力で欧化政策を行なったのです。
それが遅れた韓国(朝鮮半島)、中国、特に中国は、
その後日本からも侵略されて大変な目に遭ったのです。
日本はいち早く目覚め、
そして欧米列強に対抗できる力を持てるようになろうと努力したため、
他国に侵略されずにすみました。
そして、その過程で起こった最初の大きな激突が、日露戦争だったわけです。

ですから、太平洋戦争というのはあり得ない戦争で、
日本よりはるかに進んでいたアメリカを相手に戦争をするなんて、気違い沙汰でした。
はじめから勝てるはずのない戦争をしたと思います。
その上、とても無茶苦茶な作戦を取ったために、
中国も含めた近隣の諸国にも大変な迷惑をかけました。
私はこの無謀な戦争は大きな過ちで、日本は反省しなければいけなかったと思います。
しかし、日本国民は戦後、その反省もせず日本を守るといった心構えも忘れてしまいました。
そして、北朝鮮がこれだけたくさんのミサイルを飛ばし、
中国がこれほど歯止めなく軍事的膨張をしている中にあっても危機意識を持ちません。
そのことが、極めて危険だと思うのです。

将来、この国が滅びる可能性さえある、ということを私は皆さんにお伝えしたいのです。
そして「中国の脅威」というものを私たちは認識し、正しい情報を知らなければなりません。
というわけで、引き続き次回のコラムでもこの話題を取り上げたいと思います。

 

ハス池の前で。
お釈迦様の花として
仏教では重要な意味を持つハスは、
泥水の中に美しい花を咲かせるが、
そこから
「どんなにひどい状況にあっても
強く美しく生き抜く力」を教えてくれる。

    (ニュージーランドにて 2018年2月)