天国と地獄
 

2023年12月22日更新

第234回 ニュージーランドにて思うこと

皆さんこんにちは。浅井隆です。
私は今、ニュージーランド(以下NZ)に来ています。
このたび、私の会社㈱第二海援隊では、NZツアーを4年ぶりに催行しました。
今回は、カギ足チャート(日本に伝わる秘伝のテクニカル分析)
に精通する川上明先生と、国際税務のスペシャリストである小池良先生を
ゲストとしてお招きしました。
12名もの会員様にご参加して頂いたそのツアーも無事に終わり、
私はNZに残って日ごろの疲れを癒すべく、静養しています。

実は今、私がいる場所から沖合いに帆船が停泊しているのが見えています。
そしてそれは、幕末に勝海舟が幕府の使節団として乗っていた
「咸臨丸(かんりんまる)」とそっくりな形をしています。
そこで、私はあることを思い出しました。

NZ沖合いに漂泊していた、
「咸臨丸(かんりんまる)」
そっくりな形の船

ご存知の通り、世界は今、まさに激動期に突入しています。
ここNZも例外ではなく、コロナ禍の前後では大きく様変わりしました。
たとえば、NZはこれまで「世界で最も治安が良く、安全な国」と言われていましたが、
どうやら最近ではその称号を手放さなくてはならないほど、治安が悪化しつつあります。

ツアーでは、今までのようにNZ最大の都市・オークランドに宿泊しましたが、
その際お客様に、「夜は、一人では絶対に出歩かないように!」とお願いしました。
NZでは凶悪犯罪こそ依然として少ないのですが、窃盗などの軽犯罪が激増しており、
ホームレスも以前より見かけるようになりました。

これは少し前の話になりますが、以前のNZではにわかには信じがたい事件が発生しました。
ある日の早朝、日本で言うところの銀座の中央通りに相当する、
オークランドの高級品店が立ち並ぶ通りにある
「ルイ・ヴィトン」の店に車が正面から突っ込み、
店内にある商品が片っ端から強奪されるという事件が起きたのです。
その数日以内に、他の有名ブランド店でも同じような強盗事件が起こりました。
以前でしたら、全くもって考えられないようなことです。

世界を見渡すと、ロシアのウクライナ侵攻や
激化したイスラエルとパレスチナの対立など、
多くの地域で紛争や政治的な対立が深刻化しています。
NZは、さすがにそのような大混乱には見舞われていませんが、
それでもコロナ禍の前後で大きく変わってしまった印象を受けます。
治安の悪化に作用したのは、パンデミックだけではありません。
アフター・コロナの“インフレ”こそがNZに大きな影を落としているのです。

先ほど、勝海舟の「咸臨丸」の話をしましたが、今は幕末に情勢がよく似ています。
当時は、幕府がペリーの圧力により開国を余儀なくされ、横浜、神戸、箱館(函館)、
そして長崎などを開港せざるを得ませんでした。

すると、欧米列強が当時の日本における金と銀の交換比率に目を付け、
日本から金が大量に流出してしまいました。
これが、猛烈なインフレを誘発します。
さらには、多くの外国人が来たことにより“コレラ”が持ち込まれました。
罹れば3日と命が持たないということで「3日コロリ」と怖れられたコレラ菌は、
大流行し日本中で多くの人が亡くなりました。

インフレやパンデミック(さらには、大地震や台風など天変地異も頻発しました)などの
こうした混乱に見舞われると、当然のごとく渦中の人心は揺らぎます。
維新の原動力には、こうした“インフレ”や“疫病”による人心の揺らぎも関係していたことでしょう。

以前から私が申し上げている、日本の「40年周期説」によると、
2025年に日本はまさにその周期の「どん底」に差し掛かります。
さらには「800年周期説」によると、現在は覇権の移行期にあたります。
すなわち、西洋(アメリカ)から東洋(中国)に覇権が移りつつあるのですが、
ご存じのように世界情勢は風雲急を告げています。

アメリカという“世界の警察官”の威光が輝いているうちは、
世界中の不満分子もそれなりに大人しくていました。
しかしその威光に陰りが出始めると、その間隙を縫って(力の空白を埋める形で)
大人しくしていた不満分子が暴れるようになります。

事実、オバマ元大統領は2015年に「世界の警察官を辞める」と宣言し、
その後トランプ前大統領もモンロー主義に近い
「アメリカ・ファースト」を前面に打ち出しました。
現在のバイデン大統領は同盟関係こそ重視しますが、
“および腰”であることに変わりはありません。

こうしたアメリカの引っ込み思案とも言える姿勢が、ロシアのウクライナ侵攻、
ひいてはイスラム組織ハマスのイスラエル奇襲を招いたと考えてよいでしょう。
国連は今年1月、全世界の紛争の水準が第2次大戦終戦以降の最高値に達したと発表しました。
2022年の時点で、全世界で55の武力衝突が起きていますが、
終戦や停戦までの時間がどんどん長くなっているとの分析がなされています。
これはまさに、“世界の警察官”がいないということに起因します。
以前は大人しくていた不満分子が、“ここぞ”とばかりに動き始めました。
ウクライナや中東の紛争が、ここアジアにも飛び火したらどうなることでしょう。

米国防総省で中国担当部長を務めたジョセフ・ボスコ氏は10月10日、
議会専門紙「ザ・ヒル」に「アメリカは四方で敵と向き合っている」と題して寄稿し、
イスラエルとハマスの戦争に関連し
「世界は今、4幕で構成された文明史の悲劇の2番目を目撃している」と主張しました。
そのボスコ氏は、第1幕をロシアによるウクライナ侵攻、
第2幕をイランを背後とするハマスのイスラエル奇襲攻撃と規定した後、
「中国・北朝鮮発の、反西側キャンペーンの次の段階を警戒する必要がある」と強調しました。

日本にいるとさほど気付かないかもしれませんが、世界中で大きな変動が生じています。
私たち人類は食物連鎖の頂点に君臨し、昨今ではAI(人工知能)までも作り上げるという、
素晴らしい頭脳を持っています。
しかしその半面、争いは絶えません。
「800年周期」をつぶさに見ると、400年ごとに起こる文明の移行期には、
どういうわけか大地震や噴火、さらには地球規模の気候変動といった“天変地異”が併発しています。
これが、変化を加速させるべく作用するのですね。
今後、ますます“大変な時代”がやって来ると私は確信しています。
こういう時代には、お互いの切磋琢磨は欠かせず、
来るべき苦境を乗り越えられる力と知恵をつけなければなりません。

今回は、平和な国の代表格とされるNZでさえ、
大きな変化に直面しているということをまざまざと見せつけられました。
世界経済は、およそ40年ぶりにディス・インフレ(日本はデフレ)からインフレに転換しましたが、
インフレはより大きな問題を引き起こします。
具体的には、金利の上昇でしょうか。
2024年こそ一時的にインフレは落ち着くかもしれませんが、
その後は今以上の地獄が待っていることでしょう。
決して、日本も例外ではありません。
2025年にかけては、ここ日本も財政破綻の危機に直面すると考えてよいでしょう。

クリスマス、そして新年を迎えるにあたって夢のある、楽しい話をしたかったのですが、
なんだか厳しい未来を予測する結果になってしまいました。
ただ、第二次世界大戦後約80年に亘って、日本は平和すぎたのです。
生きることは、そう容易く良いことばかりではありません。
来たるべき年を備えるために最後の年と考えて、心して行きたいと思います。

安全で安心できる国であったニュージーランドも、
いまや日本でも起こらないような犯罪が起きる国となってしまった。
アメリカが「世界の警察官」を辞めてから、世界中が紛争と混乱に脅かされている。
もちろん、日本も例外ではない。
平和なクリスマスを一人でも多くの人が迎えられる事を祈って、今年最後のコラムとしたい。
                  (2023年12月ニュージーランド・オークランドにて)